月の風船

娘の洋服を中心にハンドメイドの記録をのせてます。時々、ゲームやドール服関連も載せています。

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るん(笑) 感想と考察(ネタバレあり)

久々に読書をしました。

既に3回程、読み返しています。

 

酉島伝法さんの「るん(笑)」です。

 
きっかけは私が好きなエッセイストのこだまさんがこの本のツイートをしていて気になったからです。こだまさんのお母様が民間療法を選択してしまう背景を踏まえるとより気になってしまって…。
 
大まかなあらすじとしては、科学や医学より迷信や民間療法が優先され、38℃が微熱(後に平熱になる)とされる世界で、各主人公から見た世界が描かれます。
3章からなる物語で、1章が38℃の熱がさがらない男性の話、薬を飲もうとすると妻の真弓から薬をはたき落とされ「免疫力の…立場、気持ち、なぜ考えてあげない」と怒られる。2章では真弓の母が主人公。癌をるん(笑)と呼び変えたり、違和感を感じつつも家族の勧める民間療法を試します。折り紙に連絡先がかかれた千羽鶴を開いて、連絡する儀式を行う。3章では真弓の甥っ子が主人公。昔は無かった謎の山で絶滅した猫らしき可愛い生き物に出会う。
(何故かこの世界観では猫は害獣とされ、絶滅してしまっている。)
 
感想
1章の主人公の具合が悪い文章が上手すぎて、こちらまで具合が悪くなりそうです。とても喉が渇いて、水結構飲みまして。
 
2章はとにかく主人公が可哀想。疑問や不満を感じつつも周りに抵抗できない。散歩のシーンで花を抜くところ、夕陽で誤魔化されないように踏ん張るところが好きです。
また、登場人物で言えば娘もイマイチなんだけど、夫が最低!病気のことを周りに言いふらすし、読みかけの本は従業員にあげちゃうし、おそらく不倫もしてる。まだ生きてるのに主人公の葬式の文章を下書きしちゃう。隠しもしない。
最後に息子が最大のプレゼントをくれて救われると思いきや、偽物。3章にでてくる主人公が残した(笑)のメモが最期に書いたものであればスカッとするのになぁ、それとも千羽鶴に書いてあったやつなのかな。
 
この物語の最大の魅力はこんな風に想像する余白がたくさん残されてる所だと思う。アクが強い世界観の割に何故世界がこうなったのか、龍とは何なのかなどが全く説明がない。セリフや何気ない文章から想像できるようになってるので読み返したくなる。私には大ハマりでした!
 
また、物語全般を通して、現実にあるエセ医学や擬似科学の元ネタがチラチラしています。たぶん、ホメオパシー、EM団子、血液クレンジング、波動医学など気づかないだけでもっとあるのでは…。なんとなくエセ医学を怖いもの見たさで調べてしまう私にはたまりません。(変なやつですいません)
作中に出てくる「未除霊の肉、動物の恐怖が残存した肉」「牛乳は人が飲むものじゃ無い」などの考え方も調べてみたら現代で一部の人は信じているようです。
 
他にも血液型や星座の占い、お百度参りと日常的な非科学的なものや素手の便器磨きなど話題になったものがトンデモ世界観を支えていて、なんだか嫌な感じに現実味があります。
この本の世界観が私たちが健康を祈ってお守りを買う行為の延長線上にあって、多数派になったら私たちもこうなるのかなぁと恐ろしくもあります。
 
ここからはネタバレ含んだ感想と考察になります。
 
第3章まではよく分からないSF?パラレルワールド?みたいな感じで読んでいたのですが、mSvという単位や山に何かを埋め立ててるところから放射線で汚染された世界観なんじゃないかと思ってみたり。
1章の主人公の住んでいる地域は「次元上昇」地域。ポジティブな意味かと思いつつも、余りに荒廃が進んでいて、マンションも崩落しています。おそらく、放射線の濃度が高い地域をこう呼んでいるのかな。よく、昔何かあった土地に綺麗すぎる名前をつけたりするように。
龍は川と推測されますが、コンクリートの拘束着を着てたという表現もあるので石棺のようにしていたのかなぁ。
 
また、発熱だけかと思いきや周囲からみて日焼けに見えるのは?と思っていましたが、放射線による皮膚障害なら納得。
こうなると医療は救えない患者さんが多くなってきて、それゆえに信頼を無くしてしまったのかなぁと。また、問題をうやむやにするために政府も平熱を引き上げないといけないのでしょうね。
 
続いて、3章に渡って登場する真弓も主人公の1人だと思う。彼女はこの世界におけるスタンダードな考え方を身につけているけれど、とても孤独。夫は具合が悪く、子どもを希望するが不妊。お世話になっている人からアンチエイジングのための胎盤をよこす様に圧力をかけられ、実家の父にも関係のないことで「子供がいないから…」と言われる。夫が薬を飲んだ時の「免疫力の…、立場」の「…」には「私の」が入るんじゃないかな。
最終的には存在しない息子「光」を作り上げているかもしれない。
 
3章で出てくる光君は真弓の甥っ子とその母親と真弓しか認知していない。
甥っ子の母にはどうも見えてなさそう。
 
真弓いわく「会うの久しぶりでしょ?」というが甥っ子は昨日も会っている。光君のセリフにはカッコもなく、〇〇と言っていた気がすると書かれることが多い。「高次生まれ」や次元を転移してるといった説明から次元上昇した街に住んでいる真弓の息子っぽい。
 
見えない息子を作って実在する様に暮らすってめっちゃ闇が深い。できれば、彼女目線のこの世界の物語を見てみたい。
また、作品はコロナ前に書かれたものみたいですが、酉島さんの書くコロナの世界も見てみたいですね!
 
ちょっとうざいくらいに書きまくりました。
誰かと感想戦できないかなぁ。